子どもを公立中学に通わせて感じたのは、普通で真面目な生徒が割を食うなぁということです。小学校までは元気に楽しく通っていたのに、中学に上がるとストレスを抱え閉塞感の中で毎日を過ごす。そんな子が少なくありません。なぜこのようなことになってしまうのでしょうか。
中学受験で真面目な子がいなくなる
10年前、長女が小6のとき、クラス30人のうち、中学受験をしたのは5人でした。東京都内では少ない方かもしれません。当時はゆとり教育への危機感といじめを心配して私立中学を選ぶ保護者が多くいました。
私立中学に進学した子の多くは、真面目で勉強に意欲的です。公立中学に進学する子の多くは、中学受験組がすっぽりいなくなってしまうことを心細く思っています。真面目な生徒の割合が少なくなってしまうからです。
問題を起こす子が悪目立ちする
公立中学には、色々な子がいます。勉強が好きな子、嫌いな子。元気な子、大人しい子。生活態度が真面目な子、不真面目な子、問題を起こす子。そんな中、クラスで目立つのは、真面目な子ではなく、不真面目で問題を起こす子です。
授業中騒がしい、宿題をやってこない、校則違反、などなど。毎日色々な問題が起こります。大多数は真面目な子なのですが、一部の不真面目な子、問題ある子の行動が悪目立ちするので、周りに強い印象を与えます。良いことより悪いことの方が印象に残りやすい。これは一種のネガティブバイアスです。
連帯責任を取らされる
本来、先生は問題を起こした一部の生徒をきちんと指導するべきです。
ところが多くの先生は、一部の生徒の問題をクラス全体の問題にすり替えてしまいます。そしてクラス全員に激昂し、クラス全員を叱責します。
長女が中学2年のとき、こんなことがありました。
英語の先生が、自分の思い出の写真について英語で話すスピーチ大会を企画しました。先生はクラス全員に写真を家から持ってくるように伝えました。スピーチ大会当日、クラスの1/3が持ってくるのを忘れたのです。
これに腹を立てた先生は「これはクラス全員の責任だ!」と言って職員室に帰ってしまいました。クラスは大騒ぎ。スピーチ大会がなくなったと喜ぶ生徒がいる中で、真面目な生徒たちは先生が出て行ったことに動揺していました。
しばらくすると先生が戻ってきて、ツカツカとクラス委員に詰め寄り「なぜクラス委員が謝りに来ない!」と声を荒げました。
結局、クラス委員と数人の生徒たちが先生に謝罪し、スピーチ大会を延期して行うようお願いしました。そこでやっと先生は機嫌をなおし、スピーチ大会は延期して無事行われたのです。
ここで注目したいのは、謝った生徒は全員忘れものをしていないということです。そして忘れものをした生徒は誰も謝っていないのです。
修学旅行でも同じようなことがありました。禁止されているケータイを持ってきた子が先生に見つかったとき、先生はその子だけでなく、班全員を叱りました。そして班全員に反省文を書かせたのです。「私はケータイを持ってきていません」そう先生に訴えても「注意しなかったのだから同罪だ」と言って聞く耳をもちませんでした。
生徒の行動を生徒に見張らせ、違反をしたら生徒に注意させる。これはまるで江戸時代の五人組と一緒です。
なぜ公立中学でこんなことが起きるのでしょうか。
指導力に自信がない先生
先生はよく真面目な生徒に不真面目な生徒を注意するよう仕向けます。しかしそれがどれだけ愚かな行為であるか生徒はよく知っています。不真面目な生徒の中には、理屈が通じない問題児もいます。下手に注意していじめの対象にされることもあります。そういう子には、はじめから関わらない方がいいのです。
実は先生もそのことを分かっていて、本当は先生自身が問題ある生徒に関わりたくないのかもしれません。子どもが暴力をふるったとしても先生は暴力で止めさせることはできません。指導力をもってしか子どもを言い聞かせる方法はないのです。
指導力に自信のない先生は、問題ある生徒と対峙することを恐れ、真面目な生徒を巻き込みます。そして全体を指導することで、自分の面子を保とうとするのです。先生が注意していい聞かせられないのに、生徒にできるわけがありません。
学校教育とは、大多数の真面目に学んでいる生徒を保護し、サポートをしてあげるのが本来の姿です。
それが現状では、一部の不真面目な生徒はきちんと指導されず、真面目な生徒が授業を妨害されたり、連帯責任の犠牲になっているのです。
「内申」という名の圧力
高校受験をする上で、内申は非常に重要です。都立高校だと当日点と内申の割合は7:3です。内申の割合が3割ならそんなに高くないと思うかもしれませんが、内申点が低いと、いくら模試の成績が良くても、希望する高校を受けさせてくれないこともあります。内申が取れないと、必然的に受けられる高校も狭められてしまうのです。
昔は定期テストの点数イコール内申点だったのですが、今は違います。授業中の態度、勉強意欲、提出物の点数など、色々な項目が加味されて内申点がつけられます。そしてそれは先生のさじ加減によるところが少なくありません。
生徒や保護者は、そのことをよく理解しています。だから先生のすることが理不尽だなと思っても、よほどのことがないかぎり声をあげないのです。先生に目をつけられて内申点を下げられたら大変です。
先生の過重労働問題
一方、教育現場の問題もあります。
先生の長時間労働、過重労働問題です。公立中学の先生は、時間外労働手当や休日勤務手当がない中、授業の準備や雑務で残業したり部活で土日も出勤したりしているのです。休憩時間もろくに休めず、いつも業務に追われています。
こんな状況下では、生徒の話をじっくり聞いたり、十分なコミュニケーションを取ることはできません。
こうした過重労働の問題は、一日でも早く解決してほしいところです。
おわりに
中学生という時期は、しっかりした自分の意見や意志を持つようになる大切な時です。本来なら自分が正しいと思うことを主張し、自我を形成してほしいところです。ところが今の公立中学は、自由に発言できるような環境にはありません。
多くの真面目な生徒がストレスを抱えたまま、サイレントマジョリティーになってしまっています。
公立中学の適正化には、まだ当分時間がかかりそうです。今の中学生には、これから高校生・大学生・社会人と成長する中で、自分を解放し自由に主張できる場所をみつけてほしいと願っています。
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